大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)2764号 判決

被告人 五十嵐次夫

〔抄 録〕

右弁護人の控訴の趣意第一点の一及び第三点について。

記録を調査すると、原審第七回公判廷において検察官は本件起訴状記載の「被告人は昭和三十年十一月二十五日二十三時五十五分東京駅発大阪行第四二一号普通列車の国鉄横浜駅に到るまでの間において旅客相沢恒次所有にかかる現金一万七千円を窃取したため横浜市西区高島町国鉄横浜駅構内地下道において神奈川県巡査鈴木和美及び横浜鉄道公安室詰公安職員岩崎忠より逮捕されようとした際逮捕を免れるため同人等に暴行を加え、よつて右鈴木に対して治療二週間を要する左小指挫創を、右岩崎に対して治療十日間を要する左顏面打撲傷を負わしめたものである」との訴因につき、昭和三十一年五月九日付訴因変更書記載のとおり、大阪行第四二一号普通列車以下を「大阪行第四二一号普通列車が国鉄横浜駅に向け進行中同列車内において旅客佐久間保の外套のポケットを探り金品を窃取せんとしたところ同人に気づかれその目的を遂げなかつたが、同人及び同列車車掌神谷耕一の連絡により神奈川県巡査鈴木和美及び横浜鉄道公安室詰公安職員岩崎忠等が横浜市西区高島町国鉄横浜駅構内において被告人を右窃盗未遂の犯人として逮捕せんとするや被告人はその逮捕を免れるため同人等に対し殴る蹴る等の暴行を加え、よつて右鈴木に対しては治療二週間を要する左小指挫創を、右岩崎に対して治療十日間を要する左顏面打撲傷を負わしめたものである」との訴因に変更する旨訴因変更の請求をなし、弁護人はこれに対し、右訴因の変更は同一性なきものと思料されるので不同意の旨主張し、原審裁判所は右訴因の変更を許可する旨の決定をなし、かつこれに基いて審理判決したことは所論のとおりである。しこうして、裁判所は検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において起訴状に記載されて訴因の追加、撤回、又は変更を許さなければならないことは刑事訴訟法第三百十二条の明定するところであり、本件起訴状記載の公訴事実は要するに、被告人が窃盗罪を犯し、これが犯行による逮捕を免れるため国鉄横浜駅構内において神奈川県巡査及び鉄道公安職員に対し暴行を加えて傷害を負わしめたというのであり、これに対し訴因変更後の公訴事実は被告人が窃盗未遂罪を犯し、これが犯行による逮捕を免れるため国鉄横浜駅構内において神奈川県巡査及び鉄道公安職員に対し暴行を加えて傷害を負わしめたというのであり、両者の間においてはただ単に窃盗の被害者の氏名と窃盗未遂の被害者の氏名及びしたがつて被害金額を異にする以外は犯行の日時場所、経過、傷害の部位程度等すべて同一であつて、その間に公訴事実の同一性を欠くものとは到底認め難いところである。したがつて原審が、所論のごとく、法律の解釈適用を誤り許すべからざる訴因の変更を許可して判決したものとはなし難いところである。畢竟論旨は理由がない。

(花輪 山本 下関)

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